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一般社団法人桜蔭会埼玉支部

同窓生から


若村育子さん

(昭和37年食物学科卒)

 私が大学を出たのは62年前。消費者という言葉すらまだ一般的でない時代でしたが、ひょんなことから消費者関連分野に迷い込み、以来この分野で仕事らしいことを してきました(消費生活アドバイザーは1期生)。 そして時が経ち、私も寄る年波とあって世の中のことは若い人に任せて・・・と思っていましたが、今回の紅麹サプリ事件ではどうしても黙っていられない思いでこ の稿を書きました。

 ※若村さんが『縄文』に書いた原稿を転載します。なお『縄文』とは、農水省ОBの鈴木厚正氏が主宰する冊子です。

紅麹サプリ事件で思うこと

"言い切り型"キャッチコピーは即刻、禁止すべき

 機能性表示食品制度はいっそ廃止した方が・・・

パッケージ パッケージ

 この3月に公表された紅麹サプリ事件には、驚いた方も多かったことでしょう。腎疾患などの健康被害が確認され、死亡した人がなんと5人もいたとか。しかもこの紅麹サプリ、サプリはサプリでも普通のサプリよりは信頼できるはずの機能性表示食品だったのです。
 機能性表示食品についてはこの私、縄文の627号、631号、636号と3回に亘って、その問題点や根本的見直しの必要性について書きました。また、事業者の思うままになっている現状に 早く手を打ってほしいと消費者庁長官と消費者委員会宛に、要望書まで出したのでした。
  あれから約1年半、この機能性表示食品の届け出数は増える一方で8,000件を越え(うち約2割が「科学的根拠が乏しい」とか「販売終了」などを理由に取り消しをしているので、現在は6,800件くらい)、また表示広告もその大げさ振りはエスカレートする一方。消費者庁も事後チェックをし、あまりにひどいものには措置命令を出した例もありますが、それはごく一部。まさに、いたちごっこのような状況でした。
 そんな中で起きたのが、今回の事件です。事業者任せというこの制度の問題点がもろに露呈した感じで、「ああ、とうとう…」との思い。起こるべくして起きた…と言いたいです。

...つづき

 機能性表示食品で私が問題点と思うのは、大きくは2つ。一つは、安全性や有効性の問題、もう一つは、表示広告の問題です。
 まず安全性や有効性ですが、今回の事件で痛感したのは、サプリに薬のような効果を期待しているというか、薬とサプリの違いを分かっていない人が大変に多いということ。
 サプリは錠剤やカプセル状で見た目が薬そっくりなので、薬と混同しがちですが、薬とは大違い。薬は、医薬品医療機器法(旧薬事法)に則って効果や副作用についても厳しい検査をクリアしているのに対し、サプリは法的には食品の範疇で、検証義務もない。従って、科学的データが乏しく、品質的にも問題の品が。そこで国が制度化したのが機能性表示食品なのですが(対象はサプリだけでなく一般食品も)、これは事業者がガイドラインに則った所定の書類を揃えて届け出るだけ。形式的なチェックはしても、有効性や安全性を審査しているわけではありません。ここを勘違いして、同じく国の制度である特定保健用食品(トクホ)と混同している人もこれまた多かった気がします。ちなみにトクホは、商品毎に審査を受け、トクホマーク付きで売られているもの(対象は一般食品がほとんど)。トクホを取得するには科学的根拠のある裏付けデータを揃える、費用や年数もかかるなどハードルが高いので、届け出るだけで販売できる機能性表示食品市場が一気に拡大したわけです。
 機能性表示食品の届出情報は消費者庁のウェブサイトで開示されていますが、難解な上に、私などが見ても「この程度のデータで効果ありと言えるの?」といったものも。ということは、専門家が検証したら「???」と思う品も多いことでしょう。しかし、安全性も効果の有無もすべて事業者の判断で、というのがこの制度なのです。

...つづき  もう一つの問題点は、表示広告のことです。景品表示法や健康増進法で禁止されている虚偽誇大と思われる表示が横行。中でも、私がとくに気になり、以前から警鐘を鳴らしていたのが、“言い切り型”キャッチコピーです。“言い切り型”とは「届出表示の一部を切り出して強調することで、届出された機能性の範囲を逸脱した表示」のことで、「内臓脂肪を減らす」「糖の吸収を抑える」といった断定的な表現を指しています。こうしたキャッチコピー、メディア広告にはもとよりパッケージでもよく見かけますが、左上の写真をご覧ください。
 これは、件の紅麹サプリのパッケージです。ネーミングのすぐ下にでかでかと「悪玉コレステロールを下げる」「L/H比を下げる」と書いてありますよね。これでは効果を過剰に期待する人がいて当然。そして起きたのが、今回の事件です。
   “言い切り型”キャッチコピーについては消費者庁も警告を発しています。<健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について>では、「届出内容を超える表示は虚偽誇大表示等に当たるおそれがある」として、例に、「届出表示が『〇〇(機能性関与成分)には血中コレステロールを低下させる機能が報告されています』であるにもかかわらず.「コレステロールを下げる」と表示することを挙げています。また<機能性表示食品に対する食品表示等関係法令に基づく事後的規制(事後チェック)の透明性の確保などに関する指針>では、「届出表示の一部を切り出して強調することは景品表示法上問題になるおそれがある」として、「特に容器包装にこうした表示をするのは十分に留意を」 と。なのに本品は、こうした警告を全く無視していた…。
 ちなみに本品の届出表示は左上(パッケージ写真の下)の通り。パッケージにはこれの一部を切り取って「悪玉コレステロールを下げる」と書き、さらに「L/H比を下げる」とまで書いている…。
 こうした“言い切り型”キャッチコピー、肝心のガイドラインでは触れられていません。ガイドラインでは表示広告規制そのものについても、です。表示広告規制は食品表示法にも盛り込まれていない。これも問題です。
 それに、医薬品と誤認を与えるような表現は禁じている医薬品医療機器法(旧薬事法)ではどうかというと、保健機能食品(トクホや機能性表示食品など)は適用外。保健機能食品については、食品表示法で一定の効果効能を謳うことが認められているのです。とは言え、「おなかの調子を整えます」「脂肪の吸収をおだやかにします」といった程度で、 “言い切り型”まで認めているわけではない。しかし氾濫するこうしたキャッチコピー、薬と誤認させることになっている・・・。ともあれ“言い切り型”キャッチコピーは、即刻、禁止すべきです。
最後に  そもそも機能性表示食品制度とは、第2次安倍政権が推し進めた、いわゆるアベノミクスの産物。経済優先の施策です。今回の事件を受けて国は「本制度の見直しを」と、それに向けて有識者による検討会も発足させたようですが、事業者任せであまりに問題が多いこの制度、安全性や機能面の見直しは多少されたとしても、広告表示にまでは手が回らないでしょうし、何よりあるべき健全な食生活のために役立っているとは思えません。
 そこで提案です。機能性表示食品制度、いっそ廃止にした方が、と思うのです。“売らんかな”で鎬を削る事業者のやりたい放題になっているようなこの制度、少しぐらいの見直しで埒が明くとは思えないからです


 ※以下の原稿は、若村さんが「桜蔭会用に」と急ぎ、書いてくださいました。

紅麹サプリ事件のその後

機能性表示食品の見直し案は出たが

 5人もの死者を出した小林製薬の紅麴サプリ事件、6月になった現在も原因究明には至っていませんが、国は予定通り5月末までに、機能性表示食品について有識者による検討会を実施し、その報告を受けての見直し案をまとめました。その柱は、GMP(適正製造規範)に基づく厳しい製造・品質管理を法的に義務付けることと健康被害情報の行政機関への速やかな報告の義務化などです。今回のような被害を防ぐための応急処置としては頷けるものの、事業者任せという機能性表示食品の制度上の問題は手つかず…でした。
そんな具合なので、私がこだわっている“言い切り型“キャッチコピーについてはとくに言及されずじまい。「薬のような効果あり」と誤認させる”罪深い“表示なのに。

つづき▷

かくなる上は、私たち消費者がこうした機能性表示食品とどう向き合うか、ですが、まず機能性表示食品の何たるかを知り、ホントに必要かどうかを見極めることでしょう。ちなみに私自身は「要らない!」という意見。普通の食品を普通に食べていれば十分と思うからです。そして、不調があったら医者に行く。薬も医者の指示に従う。その方が安心だし、第一安上がりです。
 と書いたので、改めてサプリと薬の値段を比較してみました。今回事件を起こした紅麹コレステヘルプの場合、20日分(1日3錠、60錠入り)の定価が2000円。1日当たり100円です。それに対して薬であるスタチン剤は1日当たり約10円(ジェネリックの場合)。10倍の違いです。  ただ医者の処方だと、生活習慣管理料や処方箋料、3ヵ月に1回の検査料、さらに薬局の手数料などかかりますが、全部をプラスしても後期高齢者で健康保険が1割負担の場合、1日当たり約30円。2割負担で1日当たり約60円(いずれもジェネリックの場合)です。これはあくまで友人と私の場合ですが、医者にかかる方が断然安くつくのはたしかでしょう。

ペットボトルのお茶 野菜ジュース ノンアルコールビール

【お断り】を兼ねて
 ここで取り上げた機能性表示食品は、見た目が薬とそっくりの錠剤やカプセル状のもので、国が立ち上がったのもこうしたサプリメント形状の機能性表示食品について、です。 しかし機能性表示食品制度では普通の加工食品や生鮮食品も対象にしているので、ペットボトル入りのお茶や野菜ジュース、ノンアルコールビールにまで<機能性表示食品>と書かれた品が多くなりました。しかもケシカランことに、そうしたものにも「体脂肪を減らす」などと“言い切り型“キャッチコピーがついてある・・・。 これでは、サプリと薬の違いどころか、普通の食品と機能性表示食品の違いすらわからなくなりそう。食育の観点からもこの制度はよくない。機能性表示食品のパッケージには必ず書いてある(決まりなので)「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。」の文言が空しく思えてきます。(2024年6月10日 記)